「この世の始末、請け負います。」第一章【面影】①

目的地である部屋から少し離れたコインパーキングにトラックを停めた。辺りはもう薄暗く遠くに赤く染まる空が僅かに見えている。この車以外に駐車車両はない。ダッシュボードの中から、かなり長めの数珠を取り出し、それを左手首に巻きつけ、狭い車内のバケットシートからねじり出るように外に出た。

続きはこちらから

「この世の始末、請け負います。」第一章【面影】②

僅かに開いたドアの隙間から、ブーンという音がこちらをめがけて迫ってきた。正体は外の光を求めて飛んできた数匹のハエだ。
体が入るほどドアを開けると、まず玄関の汚れ具合を確かめた。乱雑に脱ぎ捨てられた靴とサンダル、数本の傘があるだけで特に以上はない。
続きはこちらから

「この世の始末、請け負います。」第一章【面影】③

朝、六時前に事務所兼倉庫へ到着した。家から歩きで十分ほどの距離で、そう離れてはいない。事務所側のドアを開け、背負っていたリュックを机の脇に置いた。まず、いつもの朝の儀式をおこなう。

リュックの中からA5サイズの冊子を二冊取り出し、机の上に置く。
続きはこちらから

「この世の始末、請け負います。」第二章【十円】①

それは昼時のこと。内装工事の現場を確認して事務所に向かう途中、ロッキーのテーマがズボンの後ろポケットで鳴った。携帯電話の呼び出し音だ。運転中のため取り出しての操作はかなわない。代わりに左耳にはめてあるブルートゥースマイクの通話ボタンを押した。

「…カナガワ…カナガワ」
続きはこちらから

「この世の始末、請け負います。」第二章【十円】②

渋滞がなかったこともあり、思いのほか早く現場付近に到着した。カーナビは同じような建物が三十棟以上並ぶ団地の中を示している。築年数はおそらく四十年以上は経過しているように思えた。

速度を落として車を走らせる。すると目的地である建物を見つけることができた。

コインパーキングに車を停めるべく現場を素通りしたその時、一階の階段付近に立つ女性の姿が目に入った。
続きはこちらから

「この世の始末、請け負います。」第二章【十円】③

靴下を脱ぎ浴室の引き戸を左に引いた。

浴槽は小さくブルーのFRP製の物が使われている。最近はあまり見なくなったバランス釜でお湯を沸かすタイプだ。床はブルーのタイル貼りで壁も床から約一メートルの高さまで同じものが使われている。その先の壁から天井までは白いペンキで塗装されている――はずだった。

続きはこちらから

「この世の始末、請け負います。」第二章【十円】④

道具を両手に抱えて部屋に戻り、早速血痕を拭き取る段取りをした。薄手のゴム手袋をはめ、玄関前から作業を始めていく。膝をつき左手に洗浄スプレー、右手に雑巾を持ち、浴室の前までていねいに拭き取ると、一旦汚れた雑巾と洗浄スプレーをバケツの中に収めた。

続きはこちらから

「この世の始末、請け負います。」第二章【十円】⑤

天井にこびりついた血痕に洗浄用酵素剤をスプレーする。雫で体を濡らさぬよう、半分ずつ水をかけ雑巾で拭き取っていく。その後、窓や壁全体にも薬品をまんべんなく噴霧した。

泡と一緒に血痕が浮き上がってくるのを待つ間に、浴槽内に溜まっている赤い水を空にしようと思い立ち、栓を抜く。

続きはこちらから