こんにちは。
事件現場清掃人の、高江洲敦です。
本日は──
私が「特殊清掃」という仕事に出会った、そんな原点の話をさせていただきます。
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私はもともと、料理人を目指していました。
沖縄の工業高校の調理科を卒業し、上京。
ホテルの厨房に立ち、慣れない都会の暮らしにも必死で食らいつきながら、
「いつか自分の店を持ちたい」──そんな夢だけを頼りに、毎日働いていました。
ですが、現実は厳しいものでした。
手取りは決して多くなく、生活するだけで精一杯。
開業資金には、遠く及びません。
そこで、休日にアルバイトを始めました。
ハウスクリーニング。
掃除の仕事です。
最初は、ただのお金稼ぎのつもりでした。
でも、やってみると面白かった。
汚れていた場所が、自分の手でみるみるきれいになっていく。
その達成感に、私はだんだんのめり込んでいきました。
やがて、ハウスクリーニングの事業を起こしました。
若さと勢いだけで、会社を立ち上げたのです。
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最初はうまくいきました。
売上も伸び、社員も雇い、経営者としての人生が始まったかに思えました。
けれど、経営とは甘いものではありませんでした。
知識も経験もないまま、私は慢心していました。
お金の管理も、社員との信頼関係も、
何もかもをおろそかにしてしまったのです。
そして──
すべてを失いました。
社員が去り、顧客も離れ、
残ったのは、3,000万円という借金だけでした。
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そんな絶望の淵にいたとき、
救いの手を差し伸べてくれたのは、葬儀会社の社長さんでした。
「高江洲さん、特殊な現場があるんだけど……やってみないか?」
特殊な現場。
それは──
人が亡くなった後の部屋の清掃、でした。
正直、怖かったです。
気が進む仕事ではありませんでした。
でも、他に選択肢はなかった。
生活のため、借金返済のため、
私はその依頼を受けました。
───
初めての現場。
玄関のドアを開けた瞬間、
経験したことのない、強烈な臭いが鼻を突きました。
目に飛び込んできたのは、
壁にこびりついた血痕、
床に広がった体液の染み。
私は、息を止めるようにして作業を始めました。
消臭剤をスプレーし、目をそらしながら拭き掃除をして、
わずか15分。
確認もそこそこに、逃げるように現場を後にしました。
正直、心が折れかけました。
「自分には向いていない」と、強く思いました。
───
けれど──
その帰り道、ふと思ったのです。
「これだけ嫌な仕事なら、誰もやりたがらないはずだ。
それでも、誰かがやらなければならない仕事が、ここにはある。」
そしてもう一つ。
「もし自分が、逃げずに続けたなら──
きっと、誰かの力になれるかもしれない。」
そんな想いが、胸の奥に芽生えました。
───
それから私は、少しずつ特殊清掃の現場をこなすようになりました。
最初は、ただ生きるためでした。
でも、あるとき気づいたのです。
この仕事は、
単に部屋をきれいにするだけではない。
亡くなった方への、最後の敬意を示す行為であり、
遺族の方々に、少しでも「区切り」を与える仕事なのだと。
───
人は、誰しも最後には、
誰かに見送られて旅立ちたいと願うものです。
でも、孤独に亡くなった方もいる。
悲しみを抱えた家族もいる。
そんなとき、私たち特殊清掃人ができることは、
亡くなった方の尊厳を守り、
家族の悲しみに、少しだけ寄り添うこと。
清掃という行為を通して、
ほんのわずかでも、
次の一歩を踏み出すお手伝いをすることなのだと、
私は思うようになりました。
───
今、胸を張って言えます。
特殊清掃は、私にとって──
「天職」 です。
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次回は、
私が「本当の意味で使命を感じた現場」について、
さらに深く、お話ししたいと思います。
本日は、ここまでにさせていただきます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。