特殊清掃という仕事では、時折「想い」に触れることがあります。
それは、ただの汚れではなく、遺された家族が拭いきれない心の跡です。
今回ご紹介するのは、60代後半の男性が孤独死した部屋で出会った、妹さんのささやかな行動の話。
4枚の新聞紙に込められた妹の想いは、私の心に深く残りました。
【電話の依頼と静かな部屋】
「1DKのマンションで一人暮らしの男性が亡くなった。発見まで2週間ほど経っていたそうです」
不動産会社からの連絡で現場に向かいました。
現場で出迎えてくれたのは、男性の妹さんと不動産会社の担当者。
妹さんは、60代前半。静かに、でもどこか気丈に振る舞っていました。
部屋は簡素な作り。
キッチンとダイニング、そして6畳の和室だけ。
静まり返った空間に、私はゆっくりと足を踏み入れました。
【4枚の新聞紙に込めたもの】
部屋の中央、キッチンのフローリングに4枚の新聞紙が丁寧に敷かれていました。
その下には、遺体の跡が黒く残っていたのです。
私はすぐに気づきました。
これは妹さんが、自分の手でできる「せめてものこと」だったのだ、と。
恐らく遺体が搬出された後、妹さんはどうしてもその場所を直視できなかったのでしょう。
でも、何もせずにはいられなかった。
新聞紙という薄い境界線を敷くことで、兄の存在と向き合おうとしていたのだと感じました。
【静かな語りと家族の物語】
作業のため見積もりを出し、不動産の担当者と話を終えると、妹さんがふと声をかけてきました。
「良ければ……昼前に少し早めに来ていただいて、お食事でも……」
正直、依頼主からそう言われることは滅多にありません。
戸惑いながらも了承し、近くの和食店でご一緒することにしました。
席に着くと、彼女はビールを一杯頼み、ぽつりぽつりと自分と兄の人生を語り始めました。
【兄という存在】
妹さんは東北の小さな町で生まれたそうです。
生まれたとき、母親は命を落とし、その数年後に父親も亡くなった。
親戚を転々としながら育つ中で、兄だけがずっと自分を守ってくれた存在だったそうです。
兄は独身を貫き、妹の結婚や子育ても心から応援してくれた。
だが、人生は思い通りには進まない。
妹さんは二人の娘を授かるも、どちらも早くに亡くしてしまったというのです。
「そのときも……兄が支えてくれました。私にとっては……かけがえのない人でした」
そう語る彼女の目には、涙が浮かんでいました。
【新聞紙の理由】
やがて妹さんは、ぽつりとこう語りました。
「……私にできたのは、新聞紙を敷くことだけでした。
亡くなった兄のことを思うと、胸が張り裂けそうで。
でも、直接あの跡に手を触れることはどうしてもできなかったんです……」
その言葉に、私は胸が締め付けられる思いでした。
特殊清掃という仕事は、遺族の心に寄り添うことでもある。
この時ほど、それを痛感したことはありません。
私は静かに彼女に伝えました。
「お兄さんが本当にこの世からいなくなるのは、誰もその人を思い出さなくなったときです。
あなたが生きている間は、お兄さんはきっと心の中にいますよ」
妹さんは、涙ぐみながらうなずいていました。
【まとめ:新聞紙の境界線】
私たちは時に、ほんの些細な行動に、深い愛情や祈りを込めます。
あの4枚の新聞紙は、妹さんにとって兄への最後の「橋」だったのです。
どうしても直接向き合うことはできなくても、それでも兄のためにできる精一杯の行動だったのでしょう。
特殊清掃は、汚れを消す仕事ではない。
残された人の「心の整理」をそっと支える仕事なのだと、改めて感じた現場でした。
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