こんにちは、事件現場清掃人の高江洲 敦です。
今日お話しするのは、私がこれまでに経験した中でも、とても切なく、決して忘れることのできない孤独死の現場のお話しです。
――30代の女性が、一人きりで亡くなっていた。
彼女は、先に両親を亡くし、社会からも支援の手が届かないまま、静かに、そして誰にも気づかれずに息を引き取りました。
孤独死——この言葉、最近よく耳にしませんか?
誰にも看取られず、自宅で亡くなってしまう人は、今、日本で年間3万2000人とも言われています。今後さらに増えると予測されています。
私の仕事は、そういった方の亡くなった現場を清掃し、元通りの状態に戻すこと。
「特殊清掃人」や「事件現場清掃人」と呼ばれる仕事です。
その日、私が訪れたのは、郊外のとあるマンションの一室でした。
その女性は、トイレで便器に腰掛けたままの状態で見つかりました。
部屋は特に荒れた様子もなく、一見、整理整頓されていたのですが――
トイレの床一面には黒々とした体液の染みが広がっており、スリッパは便座の前で体液による癒着でガッチリ固まっていました。腰掛けたまま、ご遺体だけが運び出された様子が見て取れました。
そこまでの状態になると金成の異臭がするはずなのですが、近隣住民がまったく気づかなかったのは、トイレが部屋の中心にあり、トイレのドア、廊下のドアを経て玄関に辿り着くので死臭が外に漏れなかったのだと思います。
発見されたとき、遺体はすでに白骨化していたそうです。
そして、遺品の整理を進めていく中で、もっと衝撃的なことがわかりました。それは、寝室に敷かれた2組の布団をめくった時でした。明らかに誰かがその布団でお亡くなりになった形跡があったんです。具体的にいうと、枕にこびりついた大量の髪の毛、そして体から出たであろう油で黒ずんだシミ。
後でご依頼者にお尋ねしたところ、2組敷かれた布団の片方には、数年前に故人の母親が病死をし、数週間経って発見され、その布団が撤去されることもなくそのまま残されていたのです。
どうして、こんなことが起きてしまったのか。
実はこの女性、知的障害を持っていたそうです。
父親を病気で亡くした母と娘は、二人静かに暮らしてたそうです。
そんなある日、布団から出てこない母親の異変に気付きどうしていいか分からず不安から家を飛び出し、やがて逮捕されてしまうことになったそうです。
けれど、彼女に悪意はまったくなかった。最終的に無罪放免となり、生活保護を受けながら一人でそのお部屋での暮らしを始めたそうです。
でも、誰も彼女を支えきれなかった。
1年後――彼女は、誰にも看取られず、トイレで亡くなっていたのです。
私がこの現場で感じたのは、
「誰かがほんの少しだけ手を差し伸べていれば、彼女の最期は違っていたかもしれない」という、やるせなさです。
冷蔵庫の中には食べ物がそのまま残っていて、
台所の食器もまったく使われた様子がありませんでした。
両親が残してくれた預金も、ほとんど手をつけられていなかったそうで、 助けを求める方法すら、わからなかったのかもしれません。
施設への入所、後見人の設置、何か一つでも社会が動いていれば――。
そんなことを考えさせられる現場でのお話しでした。
私がこの仕事を始めたきっかけは、単なるハウスクリーニングでした。
でも、今は違います。
「亡くなった人の思いを受け取り、残された家族にお伝えする」
それが、私の役割だと思っています。
今回のお話を通して、誰か一人でも、孤独な人に手を差し伸べようと思ってくれたら。
それが、彼女への、そして同じような境遇にある人たちへの、何よりの供養になると信じています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
また、次回お会いしましょう。