「お婆ちゃんと、連絡が取れないんです」
電話越しの女性の声は、か細く、どこか怯えているように感じました。
その声の主は、亡くなった女性の姪御さん。
特殊清掃の依頼で私は、東京郊外の静かな一軒家へと向かいました。
現場で目にしたのは、これまで数千件の現場を経験してきた私でさえ、思わず言葉を失うような光景でした。
【浴槽の中で亡くなっていた“お婆ちゃん”】
60代の一人暮らしの女性が、浴室で亡くなっていたという通報。
ご遺体が発見されたのは、死亡から約3日後でした。
しかし、それだけでは終わらなかったのです。
この家のお風呂は、古いタイプの追い焚き式。
発見されるまでの48時間以上、熱された状態が続いていたのです。
浴槽の蓋を開けると、私の鼻を突いたのは異様な悪臭と、赤褐色に変色した“ゼリー状の湯”。
その中に、女性の遺体が沈んでいました。
【穏やかだった家と、強烈な違和感】
家の中はとても綺麗に整っていて、リビングでは妹さんと4人の娘さんが、遺品の整理をしていました。
「お婆ちゃんは、いつも家をきちんとしていたんです」
そう語る家族の様子から、深い愛情が伝わってきました。
だからこそ、私は彼女たちに浴槽の状況をどう伝えるか、迷いました。
本来なら、バキュームカーを使えば簡単に処理できたのですが、その費用は高額。
遺族の様子から、それを口にするのがためらわれたのです。
【手作業での清掃、そして…】
私は、彼女たちに静かに説明しました。
「時間はかかりますが、手作業で水をすくい、丁寧に清掃いたします」と。
了承を得てからは、バケツと風呂桶でひたすらゼリー状の湯をすくい、トイレに流す作業。
表面が固まっていたため、最初のひとすくいで“膜”が破れ、
中から立ち上がった強烈なにおいに、思わず目を背けそうになりました。
それでも、「ご家族の思い出を汚したくない」
その一心で、私は数時間かけて浴室を清掃しました。
【お風呂でありがとう】
清掃が終わり、元通りに整った浴室にご遺族を案内しました。
すると、4人の姪御さんは、風呂釜を囲んで泣いていたのです。
そして口々に言いました。
「小さい頃、お婆ちゃんとここで一緒にお風呂入ったね」
「このお風呂でよく遊んだの、覚えてる?」
「お婆ちゃん、ありがとう……」
その姿を見て、私はふと気づいたのです。
このお風呂は、思い出の場所だったのだと。
【まとめ:不幸だけではない最期もある】
確かに、遺体の状況としては衝撃的でした。
ですが、家族の愛情に包まれて、
“ありがとう”と涙を流してもらえる最期があることも、私はこの現場で知りました。
人が亡くなる瞬間に立ち会うことはできなくても、
その後に“どんなふうに送られるか”は、残された人の心にすべてが現れます。
私たち特殊清掃人は、ただ汚れを落とすのではなく、「尊厳」を取り戻す仕事なのだと、
このお風呂が、静かに教えてくれました。
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あなたの不安によりそいます。
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