コラム

「この世の始末、請け負います。」第一章【面影】③

朝、六時前に事務所兼倉庫へ到着した。家から歩きで十分ほどの距離で、そう離れてはいない。事務所側のドアを開け、背負っていたリュックを机の脇に置いた。まず、いつもの朝の儀式をおこなう。

リュックの中からA5サイズの冊子を二冊取り出し、机の上に置く。次にトイレに向かい、脇に置いてある掃除道具の入ったバケツを手に取った。朝一番にするのはトイレ掃除だ。バケツの中からスポンジを取り出すと洗剤は使わず便器の中、外側を擦り雑巾で丁寧に拭う。続いて床を雑巾で拭き上げたら作業は終了。
清掃時に手袋はしない。しないほうが良いような気がするから。理由はただそれだけ。スポンジと雑巾を洗い、バケツの縁に干すように雑巾をかけスポンジはバケツの中に収めた。

その後で爪の隙間、指の隙間、手のひら、手の甲、手首と念入りに洗う。が、手拭きは使わずズボンを叩いて水気を拭き取り、机に向かう。
机に置いた冊子のひとつには『社内統一用語集』と書いてある。表紙をめくると中には我社の使命、ビジョン、理念、クレド、それに続いて『あ』の行から順番に社内で使う言葉の定義がずらりと並んでいる。冊子の二ページあたりから書いてある我が社の使命からクレドまでを声に出して読み上げた。
「使命『孤独死をなくすこと』、ビジョン『人に関心が持てるコミュニティを創造します』、理念『感謝追求、我々の真の依頼者は、様々な状況に立つ人たちである。依頼者の内なる想いにも耳を傾け、ご要望にお応えすることが我々の役割である。そして、人の生き様から学び、運命を受け入れ、その使命に燃え、人のために懸命に走り、すべての人にいかに感謝し、感謝されるかをもって、我が組織の理念を“感謝追求”とする』、クレド …」
ひと通り読み終え、もうひとつの冊子を手に取った。中にはいくつか質問が書かれている。『昨日、ありがとうと思ったことは何ですか』、『昨日、気付いたことは何ですか』等など。天井を見上げ、昨日の出来事を振り返る。昼間食堂で起こったできごとや、現場でのこと、夜、焼鳥屋の大将と話をしたことなど、いくつか浮かび上がった。その内容を、さも誰かに語りかけるかのように話をした。

「本日の朝礼を終了します。今日も一日よろしくお願いします」

で、締める。ひとりで。数年前、親っさんに『毎日ひとりのときでもやれ』と言われて、素直にやり続けている。
冊子をリュックに押し込み肩からぶら下げ、ガレージに向かうとトラックの助手席にそれを放り投げた。荷台にしまってある道具を確認する。マスク、ガムテープ、カッパ、除菌…床の養生材と手袋が足りないか。倉庫の棚から材料を補充し荷台に収めた。