コラム

「この世の始末、請け負います。」第一章【面影】⑦

荷台から食器や鍋などを入れるためのガラ袋とダンボールを一枚取り出して部屋に戻った。室内に入るとシンクの中においてある噴霧器を手に取り、薬品を部屋全体に散布した。この時点では雨合羽は着用せず簡易的な防塵マスクで鼻と口を覆っている程度の装備だ。

キッチンから手をつけていこう。軍手をはめ、ガスの元栓とガステーブルを繋ぐホースをはずし、続いて吊り戸棚の中にある鍋類を流し台の上に下ろした。男のひとり住まいにしては調理器具が揃っているほうだろう。流し台の下にある戸棚をあけると中には大量の缶詰とインスタントラーメンが種類ごとにきっちりと積み重なっていた。消費して物が減ると買い足し、補充するのだろう。几帳面な性格が伺える一方、かなりの偏食だったのも見て取れる。どれも賞味期限は十分残っているようだが当然廃棄する。食べるのに困った経験のある者にはかなり気が引ける行為だ。キッチンにあるものすべてをガラ袋に納めてトイレの前に積んだ。

次に冷蔵庫の中を見てみた。ツードアの小さめのもので冷蔵室には使いかけの調味料と水、缶ビールが一本、冷凍室にはアイスノン枕が入っているだけだ。部屋の中で病気が原因で亡くなる場合、当然本人は今日自分の命が尽きることを知らない。よって冷蔵庫の中には明日以降の食料品を溜め込み、死亡から数ヶ月が経ち、電気料金の支払いができず使用を止められ、冷蔵庫内の食品が腐敗しているといったケースが多い。この現場の主も死後一ヶ月が経ち、心配した飲み友達が部屋を訪ねて異変に気づき発覚したのだと聞いている。しかし、この内容の貯蔵物だとほぼ腐りようがない。使いかけの液体調味料をシンクの中に流してその容器と他の内容物を七十リットルのゴミ袋に詰め込んだ。

ゴミ袋をトイレの前に積むと居間へと移動した。残っている残置物はちゃぶ台とその上にあるもの、テレビ等の家電、カラーボックスとその中身、そしてタンスの中に入っているものくらいだろう。ちゃぶ台の上にあった缶ビールの空き缶と食べかけのピーナッツの入った袋をゴミ袋に入れ、テレビのリモコンは部屋の隅に取り置いた。ちゃぶ台の足を折りたたむとトイレの前に積む。そして玄関前に置いておいたダンボールとガムテープを手にして居間に戻った。

テレビに繋がるコンセントとアンテナ線をはずしてテレビを部屋の隅まで移動し、持ってきたダンボールを箱型に整えるとカラーボックスの前に置いた。中には小さな置き時計とサングラス、そして数枚の写真があるだけだ。置き時計をゴミ袋に入れると写真を手に取った。場所はスナックなのか、カラオケに興じる人たちが写っている。この写真の新しさからすると、ここ最近撮られたものなのだろう。そしてどの写真にも写っているこの人物が部屋の主であることは察しがついた。白髪が多めの髪をオールバックに整え、薄い色のサングラスを掛けているヤセ型の男性だ。年齢は六十代半ばあたりだろうか。

写真とサングラスをダンボールに納め、カラーボックスをトイレの前に運んだ。これで居間にあるものは、テレビ、置き時計の入ったゴミ袋、ダンボールとタンス、衣類の入った袋だけとなった。