コラム

「この世の始末、請け負います。」第一章【面影】⑥

体液で汚れていたあたりが一通り綺麗になったところでその場所に半透明のゴミ袋を敷き、上から緑色の養生シートを覆い被せるとテープでぐるりと隙間なく止めた。作業中に足が引っかからないようにすることと、黒ずんだ場所が目に入らないようにするためだ。
一連の作業を終えるとキッチンの脇に置いてあったゴミ袋と、布団類の入ったゴミ袋も次々とトイレの中に収めた。浴室があればそこでどんどん収めるのだが、ここは風呂無し。ないのであれば仕方がない。これである程度の作業スペースと動線は確保できることになるだろう。

居間へ戻り七十リットルのゴミ袋を五十枚ほど取り出して、一枚ずつ両手のひらで織り込んでいくと、あっという間に部屋の真ん中に袋の山が出来上がった。
まずはかさばる衣類から手をつけることにした。足元に脱ぎ捨てられていた衣類を袋に入れ、ロープに掛かっている上着をハンガーから外し袋に詰めていく。整理ダンスの中にある衣類を取り出そうと一番上の引き出しを開けてみると、鍵や印鑑、貰った年賀状や写真などがぎっしりとつまっていた。

「あぁ、ありましたか」

この一段目のタンスの引き出しに故人の生きた軌跡が詰まっている。正直、どんなに汚れがひどい場所を清掃するよりも、故人の生き様を垣間見る遺品の仕分けの方が精神的にははるかにキツい。
今はそれには手をつけず、二段目以降に入っている下着やズボンを詰めていった。
こうして衣類の入った袋を部屋の奥に積んだところで一旦休憩を取ることにした。

キッチンの前でマスクを取り雨合羽を脱ぐと、黒のロングTシャツは絞れるほどの汗を吸い込んでいる。しかし、作業はまだ半分も終えていないので着替えるわけにはいかない。仕方なくTシャツを脱ぐとキッチンのシンクで固く絞り、それをまた着込んだ。
一服すべく現場から離れ、自動販売機で缶コーヒー買って車に戻る。エンジンはかけず窓を全開に開け、相棒のセブンスターに火をつけた。大きく息を吸い、長いため息のように煙を吐き出した。携帯電話を取り出して収集運搬業者に到着時間の再確認で電話を一本入れておく。どうやら予定時刻には到着しそうだ。昼には少し早いが今食べておかないと夕方までその暇はない。仕方なくリュックから朝コンビニで買った野菜ジュースとサラダを取り出すとドレッシングもかけず胃に流し込んだ。当然食った気はしない。

二本目のタバコに火をつけた。窓の外を見るとフェンスの向こうの道路で数人の保育士さんが大きな乳母車を押すのが見える。中には一、二歳の子供らが五、六人ずつ二台に分かれて乗っている。友達とお喋りしている子、泣いている子、歌を歌っている子…。保育士さんの大きな声を誰ひとり聞いてはいない。『ピヨピヨピヨピヨ』と、ひよこの鳴き声のようで耳に心地が良い。

「(ちょうど、これくらいの年だったかな…)」

一瞬物思いにふけるがすぐに思考を切り替えた。
灰皿にタバコを押しつけ、ゴミの入ったコンビニ袋を手にして車を出た。