コラム

「この世の始末、請け負います。」第一章【面影】⑤

消毒作業は玄関から始めて、トイレ、キッチン、冷蔵庫の中、そして居間へと移動する。
遺体があった布団とその周りには多めに消毒液を、続いて吊るされている衣類、机の上、タンスの周囲にも消毒液を散布した。梱包作業の途中でも状態に応じて散布作業を行う。空気中や見えている物の表面的な消毒だけでは除染し足りないからだ。

一通り散布作業を終えるとキッチンシンクの中に噴霧器と薬品を置いて、道具入れから七十リットルのゴミ袋を一枚取り出した。袋の口を大きく開けた状態で持つとトイレに向かう。トイレ内にある芳香剤や予備のトイレットペーパー、スリッパ、壁に貼ってあるカレンダーをその中に詰め込んだ。これでトイレ内の残置物は無くなった。汚物以外は。
袋にはまだ余裕があるので玄関にある靴を詰め込んでいく。元々故人が持っている靴の数は少ないため傘以外の物はひと作業で玄関から無くなった。こうしていっぱいになった袋を一旦キッチンの脇に置いた。

次にトイレ内の清掃にとりかかる。

大きくOBした汚物をスクレイパーで削り、便器の中に落としていく。取りきったところでトイレの水を流す。それから床面と和式便器の汚れ全体に向けて酵素洗剤を吹きかけ、ブラシでこすってから雑巾で拭き取る。この雑巾は現時点ではトイレの水を流しながら便器内で洗っておく。何度か繰り返し、ほぼ綺麗になったところでお役御免となるのだ。役目を終えた雑巾をゴミ袋に入れ、トイレ内の作業は一旦ここまで。仕上げの清掃作業はすべての荷物が部屋を出た後に行うことにする。
キッチンでゴム手袋をしたまま酵素洗剤で手を洗った。そして道具入れから九十リットルのゴミ袋を六枚取り出し、一枚ずつ口の両端を持つと両手のひらの中にどんどん織り込んでいく。ゴミ袋を小脇に挟み居間に向かうと、それを布団の脇に置いた。

「(行きますか…)」

掛け布団を手に取り汚れ具合を確認した。想像よりさほど汚れてはないようだ。小さくたたむと、用意したゴミ袋を掴み、右手で掛け布団を押し込むように入れる。続いて、毛布と枕も同じ要領で袋に詰め込み、臭いが漏れないよう袋の口をキツく縛った。
続いて敷布団。上半身から出た汚れはすべてここに収まっている。よく見ると無数の小さなウジ虫が細かく動いている。あと三日もすれば成虫となってしまうだろう。汚れがひどい方を持ち、くるくると丸めていく。こうすると体液にまみれた部分が中心に収まる。
左手で布団がめくり上がらないように抑えながら右手でゴミ袋を手に取った。布団を袋に詰めるが、当然収まりきれない。そこで新たな袋を反対側から被せ布団を包み込む。そして養生テープで袋の口をしっかりと塞いでいく。これで外に臭いが漏れることはほぼない。
布団類が入ったゴミ袋をキッチンの脇に置くと、次は導線確保の作業にとりかかる。

道具を取り揃え居間に戻り、布団からはみ出ていた汚れを取り除く作業に移った。
足があったであろう場所の畳は体液で黒ずみ、その周りは体から出た脂分でじっとり湿っている。この汚れをいくつに区切って作業を進めればいいかのイメージがつくと、一度でおこなうべき小さな作業範囲に酵素洗剤を吹きかける。それを固く絞った雑巾を使い、ていねいに拭き上げ、雑巾をバケツの中で濯ぐ。できるだけ水分を畳に染み込ませないよう素早く、何回もこの作業を進めていく。